名古屋高等裁判所 昭和59年(う)109号 判決
所論は要するに,原判示第二記載の事実は覚せい剤を譲受けたというものであり,同第三記載の事実は,右同日右覚せい剤の一部を自宅で所持したというものであるが,右第二及び第三の所為については,法的に一個の譲受罪として評価すべきであり,覚せい剤取締法14条は右のような覚せい剤の所持を別個に処罰する趣旨でないのに,原判決が原判示第三記載の事実を独立の所持罪に問擬したのは,同法14条の解釈適用を誤った違法がある,というのである。
よって考えるに,覚せい剤取締法は,覚せい剤を不法に所持する静的行為と,その所有権を移転する譲渡及び譲受という動的行為とを,それぞれ,取締りの目的と法益を異にする各独立別個の罪として処罰する法意であり,覚せい剤を譲受けた場合その瞬間に始められた所持そのものは,取引の通念に照らし,譲受に一連する包括的行為と見られ譲受の一罪として処罰するのを相当とするが,その譲受後時間的空間的関係の推移変動により取引上,その所持が別個独立の行為として観察し得るに至れば,もはやこれを譲受行為に包括されるものとはいい得ないところ,右の見地に立って,記録を調査して検討するに,証拠によれば,被告人は,昭和58年10月28日午前3時20分ころ,名古屋市緑区鹿山二丁目46番地第一コーポ福谷2号室において,加藤清美から覚せい剤約0.9グラム(3袋)を譲受け,そのうち,(イ)第一の袋は封が剥がれかけていたことから,同区大高町字北平部1番地の66北平部住宅の被告人方居室において別の袋に入換え,使用し易いように覚せい剤の粒を潰して粉にし,キーホルダーに附属している皮袋に入れて,その日名古屋地方裁判所半田支部へ出頭する際に持ち歩き,(ロ)第二の袋は,同日午前11時30分頃被告人が同裁判所へ出頭する折に自動車で送迎してくれた景山良夫にお礼として譲渡し,(ハ)第三の袋は,その頃その一部を右景山に注射させるなどし,その残りを被告人方居室内のテーブルの上に放置したが,同日前同裁判所で刑執行猶予の判決宣告を受けて帰宅後の午後3時55分ころ前記被告人方居室が,愛知県南警察署員の捜索を受けた際右(イ)の覚せい剤(0.323グラム)が発見されたことが認められる。右認定によれば,本件(イ)の覚せい剤の所持は,もはや右譲渡に伴う当然の結果としての所持とはいえず,時間的空間的移動により右覚せい剤譲受罪とは別個の同所持罪を構成するに至ったものと解するのが相当である。従って,原判示第二記載の覚せい剤譲受罪と同第三記載の同所持罪とを併合罪の関係にあると判断した原判決の法令の適用に所論のような違法を見出すことはできない。本論旨も理由がない。